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91年から2000年までの成長率が高くなっているが、これは91年が不況の年でマイナス成長だったからである。
不況の91年から2001年までをとれば、成長率は3.21%で80年代と大して変わらない。
構造改革の効果は、今後、長期的に判断すべきものだろうが、90年から2002年までの平均を見れば、成長率はむしろ低下している。
これは構造論者の考えとは異なって、構造改革の効果がそれほど大きくないことを示すのではないだろうか。
2002年の日本の失業率は5.4%に上昇し、ドイツやフランスの10%弱にくらべれば低いものの、イギリスの3.1%に逆転されている。
先進工業諸国、特に91年以来の好況を躯歌するアメリカと比較して日本のパフォーマンスがよいのは、物価上昇率だけである。
消費者物価上昇率は、90〜2002年の平均で、アメリカの2.8%にくらべ日本は0.8%(消費税の影響を除くと0.7%)となっている。
98年以降では、年平均マイナス0.8%となっている。
これでは物価安定ではなくデフレ状況にあるといえる。
しかし、バブルで膨らんだ分を控除することも、バブル以前にもどってありうるべき実質GDPの規模を考え直す必要もないという議論もある。
バブルの時期に無駄なものに支出してしまったのなら、バブル崩壊後には有益なものに支出しなければならないのだから、バブルによる需要の反動はないというのである。
この議論については、「説得力がない」と感じる方も多いかもしれない。
バブルでのよいことはそのままで、すぐさまもとの軌道にもどれるはずはないというのである。
この数字について、大きすぎるという批判があるかもしれない。
80年代後半はバブルで異常に成長率が高まったのだから、90年代はじめの低成長率はやむをえないという批判で90年代にはすでに少子・高齢化の影響があらわれ、GDPを支える生産年齢人口(国連の統計では15〜64歳だが、先進国の状況を考慮して20〜64歳としている)の増加率は、80年代の0.8%から90年代には0.4%となり、0.4%ポイント低下していた。
したがって、90年代の成長率は、80年代の3.4%ではなくて、3.0%であるとするべきだろう。
そう考えても、2002年の実質GDPは現実の538兆円より122兆円大きい660兆円となる。
また、このようなトレンドで伸びた場合の実質GDPと現実の実質GDPとの差を毎年累計すると、2003年の半ばには700兆円となる。
アメリカのIT革命の熱狂のなかで、徹夜に次ぐ徹夜ですばらしいソフトを開発した若者について考えてみよう。
彼は当然、ストックオプションで巨額の富を得られると期待して徹夜の作業に耐えたのだが、多くの企業に真似されてしまい、得られたビジネス上の利益はわずかで、彼の得た富もまたわずかだった。
しかし、真似されるほどのソフトは社会の利益を増進している。
熱狂のなかで働いた若者は結局、低賃金で働いたことになったが、すばらしいソフトは残り、アメリカ経済の供給力は増大している。
この説明で説得されないとしても、アメリカ経済の今後の進路によっては説得されるだろう。
アメリカも97年から2000年までの4年間にわたって、それまでのトレンドの3%成長ではなく、2%ポイントも高い5%というすばらしい成長をなしとげた。
しかし、2001年には不況に陥ってしまった。
2000年の前半まで、「これはニューエコノミーによるものだ」と主張していた人たちも、2001年になると、かなりの部分がバブルであったと認めるようになった。
もしアメリカ経済が、今後4年間にわたってトレンドの3%より2%ポイント低い−%成長に甘んじるなら、「日本が90年代から現在までに失った富は700兆円だ」という私の主張が大げさだという批判は正しいことになるだろう。
しかし、アメリカ経済が順調に3%成長にもどるなら、私の主張が説得力をもつだろう。
私は、アメリカ経済が2001一年に2.4%の成長を果たしたことから、日本が失ったGDPの規模は700兆円に近いと考えている。
もちろん、2003年以降、アメリカが順調に3%の成長軌道にもどれるかどうかはわからないが、低成長がさらに数年続くとは考えられない。
そう考える根拠は、北欧の経験からも得られる。
北欧でも、90年代はじめにバブルとその崩壊を経験したが、日本のように崩壊後10年間も経済が停滞するということはなかった。
もっとも回復の速かったノルウェーでは、順調にバブル以前の成長軌道にもどっている。
アメリカも、ノルウェ−のようにバブル以前の成長軌道にもどれるだろう。
少なくとも、日本のように長期に停滞することは考えられない。
問題は、なぜ日本がノルウェーになれなかったかである。
2013年までに3000兆円が失われる大停滞による損失がいくらであるかを決めるには、GDP統計がフローの統計であること、価格が下がれば実質GDPは増大することに着目する必要がある。
あるときに気分が高ぶってつくってしまったものを、冷静になってから評価すればそれだけの値打ちがないとわかっても、冷静になったときの値段で人びとが使用すれば、実質GDPは増大している。
豪華すぎるオフィスやマンション、つくりすぎたリゾート施設も、実際に使われてさえいれば、ストックの損失ではあってもフローの実質GDPの損失にはならない。
実際に、GDP統計は、このような考え方によって推計されている。
たとえば、銀行の不良債権による損失は、GDP統計のなかのどこにも出てこない。
貸し倒れによって損失が出ても、それは貸し手の金融機関から借り手の企業への所得移転と見なされ、産出額そのものにはなんら影響しないという扱いがなされている。
このため、金融機関がいくら不良債権を発生させようとも、その生み出した付加価値額は減少することはない。
奇妙といえば奇妙だが、GDP統計が毎年の産出額の統計である以上、形式的な正しさはそれで保たれている。
さらに、GDP統計が生活水準の指標である以上に、生産水準の指標でもあることに注目して、90年代の損失を確定する必要がある。
いまにして思えば分不相応な豪邸を建てて借金を背負い、それを返済するために必死で働いているというのなら、本当の意味での生活水準は上昇していないが、生産水準は上がっていることになる。
借金を背負った演歌歌手が地方巡業を増やして返済するという話を聞くことがある。
必死に巡業をしている歌手は幸せではないかもしれないが、演歌サービスの生産は増大している。
しかも、その歌手以外の、演奏をするバンドや興業関係者は収入が増えて喜んでいる。
すなわち、歌手以外の人たちは生活水準も生産水準もほぼ比例的に上昇している。
こう考えると、バブルで膨らんだ分は必ずしも控除する必要はないと考えられる。
そもそも実質GDP統計が注目されるのは、それが生産水準をあらわすとともに、それほど大きなまちがいもなく生活水準をあらわす統計でもあるからだ。
これまで述べてきたように、日本は90年代以降、現在までに700兆円、すなわちGDPの一年半分近い規模の所得を失った。
しかも、この損失は今後とも持続する。
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